「愛する人を亡くした人へ」
昨年9月20日に父が亡くなりました。四十九日を終えた翌日、『愛する人を亡くした人へ』(PHP文庫)という本が届きました。著者は、わたしです。わたしが一七年前に書いた本が文庫化されたのでした。
同書は2025年1月17日から全国公開される映画「君の忘れ方」(監督:作道雄、主演:坂東龍汰・西野七瀬)の原案になったことで注目され、文庫化に至りました。それにしても、四十九日の翌日とは、まさに最も必要な本がジャストタイムで届きました。
同書の巻頭には、こう書かれています。
「あなたは、愛する人を亡くされました。 さぞ、深い悲しみに沈んでおられることでしょう。今は、夜。空には月のかけらもなく、真っ暗です。あなたの心も、この夜空のように漆黒の闇に包まれているのでしょうね。わたしは、これから毎晩、あなたに短い手紙をお出ししようと思います。短いけれども、とても大事なことを、心を込めて書きますので、どうか、お読みくださいね。最後まで読み終わったとき、あなたの心に少しでも光が射していることを願っています」
わたしは、冠婚葬祭の会社を経営しています。本社はセレモニーホールも兼ねており、そこでは年間じつに数千件の葬儀が行なわれています。そのような場所にいるわけですから、わたしは毎日のように、多くの「愛する人を亡くした人」たちにお会いしています。 その中には、涙が止まらない方や、気の毒なほど気落ちしている方、健康を害するくらいに悲しみにひたっている方もたくさんいます。亡くなった人の後を追って自死するかもしれないと心配してしまう方もいます。
愛する人を亡くした人は何を失うのか?
「愛する人」と一言でいっても、家族や恋人や親友など、いろいろあります。わたしは、親御さんを亡くした人、御主人や奥さん、つまり配偶者を亡くした人、お子さんを亡くした人、そして恋人や友人や知人を亡くした人が、それぞれ違ったものを失い、違ったかたちの悲しみを抱えていることに気づきました。それらの人々は、何を失ったのでしょうか。それは、
親を亡くした人は、過去を失う。
配偶者を亡くした人は、現在を失う。
子を亡くした人は、未来を失う。
恋人・友人・知人を亡くした人は、
自分の一部を失う。
ということだと思います。そういった、さまざまなものを失った方々とお話するうちに、愛する人を亡くした人へのメッセージを手紙として書くことを思いつきました。現実に悲しみの極限で苦しんでおられる方々の心が少しでも軽くなるお手伝いをしたかったのです。
「おわりに」には、「もうお気づきだと思いますが、十五通の手紙は、月の満ち欠けに対応しています。最初の手紙は新月の、夜空が真っ暗なときにお渡ししました。そして、最後の手紙は満月の、やわらかな光が夜空を照らしているときにお渡ししました。しかし、きれいな満月も明日からはまた欠けはじめます。だんだん欠けていって、ついには消えてしまいます。そして、いつかまた、新たに生まれ、満月をめざして満ちてゆくのです。月は死に、また、よみがえる。人も、まったく同じことだということがおわかりいただけたでしょうか」と書かれています。
同書はグリーフケアの書です。死別の悲嘆に寄り添うグリーフケアは、わたしの人生と仕事におけるメインテーマの一つです。経営する株式会社サンレーでは、2010年から葬儀後の遺族の方々のグリーフケア・サポートに積極的に取り組んできました。
悲嘆の現場にいると、地縁でも血縁でもない、新しい「縁」が生まれていることを感じます。悲嘆による人的ネットワークとしての新しい縁です。わたしは「悲縁」と呼んでいます。グリーフケアの時代の訪れを感じます。
同書を詠まれた方が、おだやかな悲しみを抱きつつも、亡くなられた人のぶんまで生きていくという気持ちになってくれることを願っています。そして、それは、何よりも、あなたの亡くした愛する人がもっとも願っていることなのです。