一条真也のこころの世界遺産 『朝日新聞』連載 2016.07.20

『新約聖書』

キリスト教は、約20億人の信者を擁する世界最大の宗教である。

 1~2世紀に書かれたとされるキリスト教の聖典が『新約聖書』だ。
 よく『新訳聖書』と間違う人がいるが、「新訳」ではなく「新約」である。旧約に対しての、神との新しい契約という意味なのだ。
 『新約聖書』は、「福音書」「手紙」「使徒行伝」「黙示録」の四部構成となっている。
 イエス・キリストの言行録である「福音書」は、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネの順序で記されている。福音とは使徒たちが広めたギリシャ語の「よい知らせ」を意味する。
 それから、使徒たちの書簡である「手紙」、初期教会の指導者たちの歴史について書かれた「使徒行伝」、そして世界の終末を描く「黙示録」が記されている。
 「マタイの福音書」では、有名なイエスの「山上の垂訓」を描く。
 イエスが山上で弟子たちと群集に語った教えだが、「こころの貧しい人たち」や「悲しんでいる人たち」など、8回繰り返し、最後は「幸福なるかな」と述べる。
 他にも、キリスト教の祈祷文である主の祈り、「地の塩、世の光」、「右の頬を打たれれば、左も向けなさい」、「汝の敵を愛せよ」、「裁くな、裁かれないためである」などの中心的教義も述べられている。
 イエスの黄金律として知られる「何でも人にしてもらいたいと思うことは、その人にしなさい」、「敲けよ、さらば開かれん」、「狭き門より入れ」、さらには「豚に真珠」、「砂上の楼閣」などの言い回しはこの「山上の垂訓」に登場する。
 イエスの「福音」の説き方に群衆はいたく驚いた。律法者などよりもずっと権威ある者のように教えられたからである。現代にまで続くイエスのカリスマは神の聖霊に拠るからであろうか。