『老子』
老子という人物は、とにかく謎に満ちている。彼が書いたとされる書物も『老子』という。
神秘的な色彩が強い同書の内容と同じく、老子という人物もまた人間ばなれした不思議な存在としてイメージされる。
後世の画家たちのイマジネーションを刺激したように、ただ1人で青い牛に乗って、どこともしれぬ遠い彼方へ去ってゆく仙人というのが、多くの人にとっての典型的な老子像ではないだろうか。
その最も古い伝記は『史記』の老子伝である。それによれば、現在の河南省鹿邑県東方の人で、周王室の図書館の役人だったという。
おそらくは伝説だろうが、孔子が訪ねて礼についての質問をしたというから、時代は紀元前6世紀の末ということになる。
やがて老子は周の衰運を予見して都を去る。その後、関所の役人の頼みで、上下2篇5千数百字の書物を著わした後、消息を絶った。
この書物が現在の『老子』であり、『道徳経』とも呼ばれた。
そこで、老子は「道(タオ)」の思想を説いた。「道」とは天地もまだ生じない前からある物としてあり、天地間の万物は「道」のおかげで生成を遂げ、それぞれ所を得ているという。
老子の思想の根幹は、無為自然の道に徹することである。そして、その道を徳として日常の中に実現することである。「道は常に為すなくして為さざるなし」というとき、この無為とは「自然に順う」ことであり、自然とは「もののありのままの姿」であった。すなわち、老子の教えの要点とは、「あらゆる作為を捨てて、ものの自然に帰れ」ということなのだ。
老子の後には荘子が出て、2人の形而上的思想は「老荘思想」と呼ばれた。道教のベースの1つだ。