同志の還暦祝い
一条真也です。
出版プロデューサーの内海準二さんという方がいます。先日、60歳の誕生日を迎えた内海さんと東京の某ホテルの最上階のBARで会いました。還暦のお祝いをするためです。
■お祝いに「赤」を贈るワケは?
近年、30歳前後を「アラサー」、40歳前後は「アラフォー」、50歳前後は「アラフィフ」と呼びます。60歳前後は伝説の名俳優・嵐寛寿郎をもじって「アラカン」と言うそうです。還暦は第2の誕生とされ、生まれ直すといって赤子のように赤色の衣服や頭巾などを贈って祝います。還暦に贈る赤色は、赤子に贈る赤い品々になぞらえています。
では、なぜ赤色なのか。赤色は、朱色や紅色なども含めて祝意を表すもので、縁起物や祝事の膳椀、酒樽(さかだる)などに使用されました。それとともに、魔除(よ)けの意味でも赤色は重視されました。わたしは、赤のチャンチャンコの代わりに、内海さんに「還暦祝い」として、ラルフ・ローレンの赤いVネックセーターをプレゼントしました。
内海さんとわたしは、30年来の付き合いです。わたしは大学卒業後、東京の赤坂見附に本社のある東急エージェンシーに勤めていました。内海さんは、その東急エージェンシー時代の先輩です。当時は出版事業部に所属されており、わたしの処女作『ハートフルに遊ぶ』をはじめ、多くの本を編集してくれました。「一条真也」というペンネームも内海さんと相談して決めました。
■運命的な10年前の再会
わたしが東京から九州に居を移したこともあって連絡が絶えていましたが、あることからふと内海さんを思い出し、じつに10年ぶりに電話をしてみました。すると、その日が偶然にも内海さんの東急エージェンシー退職の日だったのです。
内海さんは、フリー編集者として独立することになっていたのです。本当に縁というのは摩訶(まか)不思議ですが、その電話がきっかけで数日後に東京で再会し、『ハートフル・ソサエティ』(三五館)の出版に至りました。また、『ロマンティック・デス~月と死のセレモニー』(国書刊行会)を文庫化した『ロマンティック・デス~月を見よ、死を想(おも)え』(幻冬舎文庫)も出版されました。あれは戦後60年だったので、今からもう10年前になります。
内海さんへの電話はまさに心理学者ユングのいう「シンクロニシティ(共時性)」だと思いました。シンクロニシティとは個人の運命を変える鍵であり、世界によって使命が与えられた印であるとユングは述べています。
再会後の内海さんとは多くの本を一緒に作ってきましたが、それらのすべてに何らかのミッションがあると思っています。わたしの著書・編著・監修書などを「一条本」と呼んでいるのですが、現在、80冊ある「一条本」のうち、じつに38冊が内海さんが関わった本です。
特に、グリーフケアの書である『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)などは大いなる使命感をもって書きました。また、島田裕巳氏のベストセラー『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)の刊行後にすぐさま『葬式は必要!』(双葉新書)を出したときは「電光石火の早業!」と、出版界で話題になりました。これらの本も、すべて内海さんのプロデュースでした。
そして、わたしたちが10年ぶりの再会を果たしてから、昨年でちょうど10年目でした。わたしたちコンビにとって節目の年にして勝負の年だったのです。わたしたちは満を持して、『永遠葬』(現代書林)および『墓じまい・墓じたくの作法』(青春新書インテリジェンス)を世に問いました。わたしにとって、内海さんは「天下布礼」の大切な同志です。
また、わたしたちは同じ雑誌にコラムを連載する仲間でもあります。何を隠そう、日本初の終活専門誌である「終活読本ソナエ」(産経新聞出版)で、ライターとしても活躍している内海さんは「データにみる追悼」を、わたしは「一条真也の『老福論』」を連載しているのです。
■還暦祝いは終活開始のセレモニー
わたしたちは、積もる思い出話をしながら、BARからホテルのレストランに場所を移し、食事をしました。その後、わたしの行きつけの店である赤坂見附のカラオケスナックへ。互いに数曲ずつ歌った後、ラストにわたしは井上順の『お世話になりました』を歌いました。3番まであるのですが、替え歌で1番は「『ハートフルに遊ぶ』では、お世話になりました」、2番では「『ハートフル・ソサエティ』でもお世話になりました」、3番では「今年は戦後70年、『永遠葬』で本当にお世話になりました」と歌いました。
見ると、内海さんは目を真っ赤にしていました。照れ隠しか、西城秀樹の「ヒデキ、カンゲキ~!」をもじって「ジュンジ~、カンレキ~!」などと言っていました(笑)。
還暦祝いは、一連の長寿祝いのスタートです。考えてみれば、長寿祝いとは終活の区切りであり、還暦祝いは終活開始のセレモニーかもしれません。赤子のような無垢(むく)な心に還(かえ)った内海さんとはぜひ、これからも終活界の「最強のふたり」を目指したいと思います。