平成心学塾 社交篇 人間関係を良くする17の魔法 #001

開講にあたって

礼法という名の魔法にはじまる

 

本講座は、「魔法」についての講座です。どういう魔法かというと、「人間関係を良くする魔法」です。いま、多くの人々が人間関係に悩んでいます。あなたは、どうですか。

わたしたちが生きる社会において、最大のキーワードは「人間関係」ではないでしょうか。社会とは、つまるところ人間の集まりです。そこでは「人間」よりも「人間関係」が重要な問題になってきます。そもそも「人間」という字が、人は1人では生きてゆけない存在だということを示しています。人と人との間にあるから「人間」なのです。だからこそ、人間関係の問題は一生つきまといます。

夏目漱石の『草枕』には、「智に働けば角がたつ。情に棹されば流される。意地を通せば窮屈だ。とにかく人の世は住みにくい」という言葉が冒頭に出てきますが、これは人間関係の難しさを見事に表現しています。

さて、わたしは冠婚葬祭の会社を経営しています。冠婚葬祭の根本をなすのは「礼」の精神です。では、「礼」とは何でしょうか。それは、2500年前に中国で孔子が説いた大いなる教えです。平たくいえば、「人間尊重」ということです。

わたしは、人類が生んだあらゆる人物の中で孔子をもっとも尊敬しています。孔子こそは、人間が社会の中でどう生きるかを考え抜いた最大の「人間通」であると確信しています。その孔子が開いた儒教とは、ある意味で壮大な「人間関係学」といえるのではないでしょうか。

そのような考えを著書などで述べていたところ、北陸大学「孔子学院」の開学記念講演の講師として2006年8月に招かれ、2008年4月からは同大学の未来創造学部の客員教授として、「孔子研究」の授業を担当させていただいています。

中国人留学生を含む学生さんたちに「礼」の精神を説くことは、わたし自身、大変良い勉強となっています。何よりも、尊敬する孔子の教えを若い方々の前でお話できる幸せに心から感謝しています。

さて、わが社では、「人間尊重」を大ミッションに、「冠婚葬祭を通じて良い人間関係づくりのお手伝いをする」を小ミッションに定めており、全社員がいつも「良い人間関係づくり」について考え、行動しています。

具体的には、独身の若者や一人暮らしのお年寄り同士を紹介し合ったり、カルチャー教室を運営したり、旅行やイベントを企画・開催したり、さらには話題の隣人祭りを開くお手伝いなどをしています。

もちろん本業がホスピタリティ・サービスの提供ですので、わが社では、お客様を大切にする「こころ」はもちろん、それを「かたち」にすることを何よりも重んじています。会社からの教育や指導はもちろん、社員各自も日々の鍛錬に努めています。

こうしたサービス業としては当たり前のことが、一般の方々の「良い人間関係づくり」においても、きっと何かのヒントになるのではないかと思います。

「良い人間関係づくり」のためには、まずはマナーとしての礼儀作法が必要となってきます。日本における礼儀作法は、武家礼法であった小笠原流礼法がルーツとなっています。

わたしは学生時代より小笠原流礼法第32代宗家の小笠原忠統先生、および父でもある実践礼道小笠原流の佐久間禮宗会長から礼法を学んできました。26歳のときに、小笠原先生から免許皆伝を許されました。

小笠原流礼法などというと、なんだか堅苦しいイメージがありますが、じつは人間関係を良くする方法の体系に他なりません。

小笠原流礼法は、何よりも「思いやりの心」「うやまいの心」「つつしみの心」という3つの心を大切にしています。これらは、そのまま人間尊重の精神であり、人間関係を良くする精神なのです。

また、小笠原流礼法以外にも人間関係を良くするさまざまな魔法がこの世には存在します。本講では「いいとこ取り」の精神で多くの魔法を集めてみました。

本講のどこから読んでいただいても結構です。毎日の通勤・通学の時間、昼休み、あるいは病院の待ち時間とか、散歩の途中で公園のベンチに座ったときとか、ぜひ本講のお好きな講座をお読み下さい。

漱石が「住みにくい」といった人の世を「住みやすくする」魔法にあふれた本、それが本書です。本書を読まれたみなさんが、心ゆたかな魔法使いとなられて、良い人間関係に恵まれ、幸せな人生を送られることを願っています。

人間の関係良くし世の中を明るくするはわれらのつとめ
庸軒