平成心学塾 童話篇 涙は世界で一番小さな海 #008

おわりに

「涙は世界で一番小さな海」

アンデルセンは、涙は「世界でいちばん小さな海」だといいました。そして、わたしたちは、自分で小さな海をつくることができます。その小さな海は大きな海につながって、人類の心も深海でつながります。

たとえ人類が、宗教や民族や国家によって、その心を分断されていても、いつかは深海において混ざり合うのです。

まさに、その深海からアンデルセンの人魚姫はやって来ました。人類の心のもっとも深いところから人魚姫はやって来ました。彼女は、人間の王子と結ばれたいと願いますが、その願いはかなわず、水の泡となって消えます。

孤独な人魚姫のイメージは、星の王子さまへと変わっていきました。王子さまは、いろんな星をめぐりましたが、だれとも友だちになることはできませんでした。でも、本当は王子さまは友だちがほしかったのです。七番目にやって来た地球で出会った「ぼく」と友だちになりたかったのです。

星の王子さまとは何か。それは、異星人です。人間ではありません。人魚も人間ではありません。人間ではない彼らは一生懸命に人間と交わり、分かり合おうとしたのです。人間とのあいだにゆたかな関係を築こうとしたのです。

それなのに、人間が人間と仲良くできなくてどうするのか。戦争などして、どうするのか。殺し合って、どうするのか。わたしは、心からそう思います。

アンデルセン、メーテルリンク、宮沢賢治、サン=テグジュぺリ・・・・ハートフル・ファンタジー作家たちは「死」や「死後」や「再会」を描いて、わたしたちの心の不安をやさしく溶かしてくれます。それと同時に、生きているときによい人間関係をつくることの大切さを説いているのではないでしょうか。

だれかに同情する。だれかに気をくばる。だれかを愛する。さあ、大いなる「友愛」の心で、人間関係のゆたかさという大輪のバラをこの世界に咲かせようではありませんか。

ハートフル・ファンタジーをめぐる、わたしたちの旅はひとまずここで終わりです。