一条真也の老福論 終活読本『ソナエ』連載 第4回

永遠の知的生活のすすめ

前に「読書で死を乗り越える」という話をしたが、人生を美しく修めるために、読書の持つ役割ははかり知れないほど大きい。

 日本で最も読書をされた方は、上智大学名誉教授である渡部昇一先生ではないだろうか。
 渡部先生は「稀代の碩学」であり「知の巨人」、そして「現代の賢者」として知られる。
 昨年の夏、わたしは渡部先生と対談する機会に恵まれた。最初は、わたしにとっての「恩書」である先生の大ベストセラー&ロングセラー『知的生活の方法』の思い出から始まって、先生の世界一の書斎および書庫のお話、それから「四大聖人」「心学」「カミ文明圏」といった日本人の本質に迫るテーマを語り合い、最後は靖国神社を中心とした「鎮魂」「慰霊」の問題について意見交換をさせていただいた。
 対談は5時間以上にも及んだが、最後にわたしは「永遠の知的生活」について語った。
 わたしは、読書した本から得た知識や感動は、死後も存続すると本気で思っている。
 人類の歴史の中で、ゲーテほど多くのことについて語り、またそれが後世に残されている人間はいないといわれているそうだが、彼は年をとるとともに「死」や「死後の世界」を意識し、霊魂不滅の考えを語るようになったという。わたしも、教養こそは、あの世にも持っていける真の富だと確信している。
 死が近くても、教養を身につけるための勉強が必要なのではないだろうか。モノをじっくり考えるためには、知識とボキャブラリーが求められる。知識や言葉がないと考えは組み立てられない。死んだら、人は精神だけの存在になる。そのとき、生前に学んだ知識が生きてくるのではないか。そのためにも、人は死ぬまで学び続けなければならない。
 わたしがそのような考えを述べたところ、渡部先生は「それは、キリスト教の考え方にも通じますね」とにこやかに述べられ、「キリスト教の研究家にこんなことを教えてもらいました。人間が復活するときは、最高の知性と最高の肉体をもって生まれ変わるということです」と言われた。
 わたしが「これからもずっと読書を続けていけば、亡くなる寸前の知性が最高ということですね。そして、その最高の知性で生まれ変われるということですね」と申し上げたところ、先生は「そうです。それに25歳の肉体をもって生まれ変われますよ」と言われた。
 これには涙が出るほど感動した。読書を至上の喜びとする者にとって、これほど嬉しい言葉はない。わたしは「それを信じてがんばります。まさに『安心立命』であります」と述べた。
 わたしは、ゲーテと同じく理想の知的生活を実現された、おそらく唯一の日本人であろう渡部先生に対して、ゲーテと対話を重ねた詩人のエッカーマンのような心境でお話しをうかがわせていただいた。
 渡部先生は現在84歳だが、95歳まで読書を続け、学び続けると宣言されていた。先生ほどの現代日本最高の賢者でも学ぶことをやめない。そのことに、わたしは非常に感動した。自分も、ぜひ生涯にわたって学び続けることを心がけたいと強く思った。
 わが人生における最高の思い出となった、渡部先生との対談は『永遠の知的生活~余生を豊かに生きるヒント』として実業之日本社から発売された。ご一読を。